給与所得と事業所得の所得区分
問題の所在
近年ではITやAIの普及による社会情勢の変化など様々な要因により、テレワークなどの就労形態の多様化が進んでおり、この影響から給与所得と事業所得の所得区分の判断が実務上悩ましいものとなっています。
給与所得と事業所得のどちらの所得に区分されるかにより、源泉徴収の有無、消費税の仕入税額控除の対象の有無、健康保険料、厚生年金保険料などの社会保険料徴収の有無などが変わることになるので厄介です。
所得区分の原則
所得税法上給与所得は「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定され、事業所得は「農業、漁業、製造業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得」と規定されています。
昭和56年最高裁判決
この判決では、両所得の区分検討に当たって次のような判断基準が示されました。
①自己の計算と危険、②空間的、時間的な拘束、③非独立的、従属的労働の対価、の3つで判断していますが、実務上の判断では次の5つの着眼点があります。
5つの着眼点
①代替性があるか
他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうかの着眼点です。代替性がなければ、給与所得の該当性が大です。
②拘束性があるか
支払者から作業時間を指定されたり、報酬が時間を単位として計算されるなどの拘束を受けるかどうかの着眼点です。時間的な拘束があれば、給与所得の該当性大です。
③指揮監督があるか
支払者からの指揮監督(業務上当然のものは除く)を受けるかどうかの着眼点です。指揮監督を具体的に受けていれば、給与所得の該当性大です。
④報酬請求権があるか
請負契約が雇用契約かの着眼点です。
⑤材料又は用具等が供与されているか
業務に必要な材料、用具等が供与されているかどうかの着眼点です。これらを自己で準備していれば、事業所得の該当性大です。
今後の展望
昭和56年最高裁判決で示された所得区分の判断基準は今後も有効であると考えられます。しかし、ITやAIの普及による社会情勢の変化など様々な要因から就労形態の多様化が進んでおり、給与所得と事業所得の所得区分をめぐる判断については、今後益々複雑になっていくものと予想されます。